2020年3月18日、かねてより香川県議会にて議論が進められていた「ネット・ゲーム依存症対策条例」が賛成多数により正式に可決されました。
香川県ネット・ゲーム規制条例案、可決 「県民をネット・ゲームから守る」 – ITmedia NEWS:… https://t.co/D7tuSn954W pic.twitter.com/VsvPs9dPyK
— coco5959 (@coco59595959) March 18, 2020
2020年に入って早々に話題となったこの条例。
県内外を問わず検討段階から多くの注目を集めていた本案は、今回の可決を経て同年4月1日より施行される見通しとなっています。
SNS上でも取りあげられることが多く、香川県に関わりがなくても「聞いたことがある」という方は多いのではないでしょうか。
今回は本条例の内容や制定目的、可決されるまでの過程など様々な関連情報をまとめてみたいと思います。
目次
ネット・ゲーム依存症対策条例とは
香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例案」【全文】 https://t.co/Q3RQ4cTji3
— 鼬と獺 (@itati_kawauso) March 21, 2020
香川県議会が2020年3月18日に可決した、日本初のゲーム障害対策に特化した条例です。
ゲーム障害は国際疾病分類において2022年施行予定の第11回改訂版より採用される新しい疾患であり
本条例はこれに対処することを目的に制定されたものとなっています。
なお、議案書の全文は『香川県議会のホームページ』にてどなたでも閲覧可能です。
条例の内容
暇だし香川県ネット・ゲーム規制条例案全文載せる pic.twitter.com/rZZfP9Yj1R
— コムヒロ (@KOMU___HIRO) March 19, 2020
全20条からなる本条例ですが、現状では具体的な手段についての言及は少なく
「~について啓発する」「~のために施策を講ずる」
といった対策の方向性を示すに留まった内容がほとんどとなっています。
ただその中で1つだけ、明確に基準数値が用いられた条文が採択されており
この内容が本件が全国から多くの関心を集める最初のきっかけとなりました。
ゲームは1日60分まで
ゲームは1日1時間の香川県
VS
公園外遊びは1日1時間の福島県 pic.twitter.com/cFAcDF7MGX— 鉢 (@9NZ7hagej) March 18, 2020
家庭内でのコンピュータ機器利用について言及した第18条において、本条例ではその時間を以下のように制限しています。
子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とする
スマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とする
私的な見解も入りますが、他の条文に比べかなりはっきりとした対策法が明示されており
このことから上記の第18条が当該条例の肝にあたる部分と考えられます。
条例の注目度を高めたいくつかのポイント
本条例が第18条の内容をきっかけとして関心を集めたことは先述のとおりですが
その関心が薄れることなく、むしろより高まっていった背景には他にも様々なポイントがあります。
表現の規制
俺が再三
香川ネットゲーム規制条例案の
11条がヤバいっていうのは
「事業者は、(略)著しく性的感情を刺激し、甚だしく粗暴性を助長し、(略)依存症を進行させる等子どもの福祉を阻害するおそれがあるものについて自主的な規制に努めること」
って表現規制ではないかと。 pic.twitter.com/Ii2xzuxFfr— 略してヒラメ⋈香川のネットゲーム規制は表現規制 (@hiramei) January 23, 2020
本条例が「香川県のこどもをゲーム障害から守ること」を目的としたものであることは先述のとおりですが
第11条においてゲーム内での表現方法に言及している箇所があり、この点が「表現の自由権に抵触するのでは」と懸念する声があがりました。
また同箇所は「対象が“県民”とより広い捉え方のできる表現に替わっている」といった指摘も聞かれ、これらの点が
「疾病予防を看板としつつもその実態は表現規制ではないのか」
という不安に繋がった向きがあります。
パブリックコメントの不透明さ①
「賛成のために動員したというのは、事実無根」「僕は、支援者やその家族などに、書いてくれたら届けますよと言って、県に届けただけです」 ガッツリ動員で草。/香川ゲーム条例、2000件もの「賛成」はどこから 支持派市議がパブコメ集めも | ニコニコニュース https://t.co/3sM9XB7A4K
— あでのい@17歳女子高生 (@adenoi_today) March 13, 2020
条例内容の検討にあたり、香川県は1月23日から2月6日までの約2週間にわたりパブリックコメントを募集。
結果、県内から寄せられた2600件超のコメントのうち84%にのぼる2268票もの賛成票があつまりました。
しかし県外の事業者(※第11条の規定対象業者)から寄せられた70件超のコメントには賛成が1票もなく、どころか94%の反対票が集まるというまったく真逆の事態に。
加えて通常であれば数件~数十件、多い場合でも百数十件程度であるコメント数が、本件では文字通り桁違いとなっている状況もあり
「賛成数の動員があったのでは」
「本当に民意を反映しているのか」
という疑問の声があがり始めます。
パブリックコメントの不透明さ②
さらにこの状況に拍車をかけたのが、現職の香川県議であり、本条例の検討委員メンバーでもある秋山時貞氏の以下の発言です。
日本共産党県議団として、ネット・ゲーム依存症対策条例へのパブコメ全意見の開示を再三に渡り県議会に求めていますが、未だに開示されません。
これでは各委員が責任ある判断もできません。パブコメを公開し、県民の前でしっかりと議論すべきです。
私は、2月議会での拙速な採決には強く反対します。 https://t.co/7RR0bzA1nt— 秋山ときさだ (@akym_tksd) March 14, 2020
求めていたパブコメ全意見の公開について、回答がありました。
内容に愕然。簡単に言うと、
①開示は”検討委員のみ”
②18日13時〜19日17時の期間限定
(本会議はすでに終わってます)
③メモや口外はダメこれでは公開と言えません。
(個人情報の非開示は当然です)#ネット・ゲーム依存症対策条例 pic.twitter.com/4k9cLaH4Oe— 秋山ときさだ (@akym_tksd) March 17, 2020
条例内容を精査する立場の検討委員が参考情報となるパブリックコメントをまっとうに閲覧できない
という状況が露呈し、先述の疑問の声を助長してしまいます。
その後、本条例は賛成22・反対10で可決されることとなりますが
実際にはこの他
「パブリックコメントの詳細な内容を把握していない以上、賛否の判断はできない」
として退場した議員が8名おり、議会内部でも少なくない疑問が持たれたまま条例が制定されてしまった実態が浮き彫りとなりました。
他県の追従の動き
こうして制定された香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」ですが
類似する案は他県でも検討されており、今回の条例施行がその動きを加速させるのではないかと言われています。
香川のゲーム規制「効果を注視」 :日本経済新聞https://t.co/lNnmtRt20xhttps://t.co/Rq2qMf3lpg
東京都の小池百合子知事は19日の定例記者会見で、香川県が4月に施行する全国初のゲーム規制条例について「賛否両論あるのは承知している。どういう効果をもたらすのか注視していきたい」と述べた。都… pic.twitter.com/qOBKKitON5— はてブ(users100)エントリー (@hatebu100) March 21, 2020
香川県と秋田県大館市のネット・ゲーム規制条例案について | ティードリームネットワークス公式ウェブサイト https://t.co/qFgeSFAObK
— 時々浮上、基本放置 (@unfloating_kan) March 20, 2020
香川だけでなく、それこそ全国の都市でこうした規制が進んでいくのでは、という当事者意識の高まりが
今回の報道への高い関心に繋がったことは想像に難くありません。
実際にゲーム障害を予防することはできるのか?
【悲報】ゲーム障害の予防策、一番下が超絶難易度。 pic.twitter.com/6U7H2AWFsB
— フジモン (@fujimon_YDL) August 10, 2019
さて。
今回のトピックにおいて最も重要なこの点、結論から言ってしまうとまったくの未知数です。
国際疾病分類においてゲーム障害は下記の状態を指すものとされています。
・ゲームをする時間や頻度を自分で制御できない
・日常的活動よりもゲームを優先させる程度が甚だしい
・ゲームをすることで悪影響が生じていてもゲームを続ける、または増やす
本条例の趣旨はこれらの症状を予防することにあるわけですが
時間制限を設けることが予防につながるとの科学的・医学的なエビデンスはありません。
もちろん条例内容が適当に定められたわけはなく、香川県なりの論拠はあるはずですが
少なくとも科学的な側面からいえば
「効果のほどは現状誰にもわからない」
というのが正直なところです。
無意味と決めつけるのは時期尚早
こうした不明瞭な点も本条例を疑問視する風潮に一役買ってしまっているいっぽう
ゲーム障害を危険視し、対策にいち早く乗り出す同県の動きを評価する声も少なくはありません。
こどもがゲームに依存してしまっている、あるいは将来的にそうなってしまうかもしれないと苦慮する家庭は現実に多く
SNS上では行政側で対処の指針を打ち出してくれたことを歓迎する向きも見られます。
【反応は?】スマホ夜間制限 親も子も歓迎http://t.co/wGnhbeSDMm
愛知県刈谷市の小中学校で、夜間のスマホ使用制限が始まって1ヶ月が経った。生活改善につながったと歓迎する声が上がっている。pic.twitter.com/UKVFJCY7c6
— ライブドアニュース (@livedoornews) May 2, 2014
実際の類似例として、愛知県刈谷市では2014年から小中学生を対象に21時以降のスマホ利用を制限する試みが行われており
対象世帯から9割以上の賛同が得られたとするアンケート結果もあります。
本条例が根拠に乏しいまま設けられてしまった印象は否めないかもしれませんが
結果として社会にプラスの影響をもたらす可能性もあり、その経過には慎重な注視が必要といえます。
条例に対する様々な声
賛成派
ゲーム規制については、賛成かな。
特に罰則もないし、各家庭でゲームと教育に対して見つめ直しましょでしょ
子供が家で楽しむ方法がなければ外に出て寂れた公園とか整備されたり、商店街が活性化されるだろうし。
何よりゲーム以外の楽しいことを知る機会になるし
ゲームが面白すぎて人類が負けてる。— しろクロ猫 (@nyankodays) March 20, 2020
香川県のゲーム規制は反対意見が多いのだけど、実は私は賛成派なのよ。
全国に広げるべきだと思う。
例えばアイドルマスターにしろ、今私がやってるレヴュースタァライトにしろ、ハッキリ言って有害なコンテンツだからね。
特にスマホゲームの有害性はスーファミの頃とは比べものんなんないでしょ。— センチュリー・大橋 (@CenturyOhashi) January 13, 2020
え?これこんな反対派多いの??これ子持ち家庭に絞って聞いたら結果全然違うと思うよ。eスポーツとかYouTuberとか自分達が子供の頃と比べてゲームという存在が身近になりすぎてる故に「規制とまでは行かなくても指標があっても良い」って家庭が私の周りでは非常に多いんだけど…
— ぽこ🍤 (@pococo_mar) January 29, 2020
反対派
カンニング竹山憤慨 香川県のゲーム規制条例案可決に「すごく考えが古い。時代と逆行してる」 – スポニチ Sponichi Annex 芸能 https://t.co/OoIrlibC4w
— semisuke (@960tanuki) March 18, 2020
電ファミニコゲーマーさんにインタビュー記事を掲載頂きました。
私もゲームから多くを学んだ世代。
非科学的で歪な条例が波及しないよう歯止めをかけていきたいと思います。香川県「ゲーム規制」が全国に波及する可能性── 規制に反対する若手都議に問題の本質を訊いた https://t.co/FQIXGZGWXH
— 栗下 善行 🌰 都議会議員(大田区) (@zkurishi) March 21, 2020
やはりこういう動きが…。
勿論こんな条例はやめるべきだし、どうしても花道を作りたいという事なら、せめて附帯決議で「家庭への過度な介入が行われないよう徹底した周知を行うこと」と入れたり、逐条解説で「事業者とは県内に事務所や事業所を有する個人や法人をいう」と対象を絞ったりすべき。 https://t.co/btz46zILjS
— 松本ときひろ 弁護士 品川区議会議員 (@matsumoto_toki) March 14, 2020
その他
私もゲーム規制そのものは反対派なんですが、ガチャ制限は部分的に賛成なのです。もちろん禁止じゃなくて、今の行き過ぎた低排出率を是正しろって意味ですけどね。かつてガチャで痛い目にあってソシャゲ嫌いになってしまいました。そもそもこういう対策は県じゃなくて国がやることですけど…。
— リジス (@lidges) February 4, 2020
ツイッタランドでは反対派のキレのある論陣が張られてるけど、世間様の感触はこんなもん。
香川のゲーム規制条例案、約半数が賛成との調査結果 「他の遊びのほうが脳の刺激になりそう」「今はゲームも職業になる時代」など賛否 – ねとらぼ https://t.co/ktUfsVJawP
— Technical_KO (@aeon0331) January 28, 2020
この記事と大体同じ意見
相関と因果を一緒にするなと…個人的には脳の発達途上にある子どもに使用制限をかける検討が必要だと思うが、エビデンスなしにやった香川県はゲーム規制への賛成派反対派双方にとって害かと
あと、ゲームだけじゃなくてネットも含めた検討をすべきhttps://t.co/WrODPeUfd7— こばやし… (@renielK_111) March 16, 2020
まとめ
ゲームは日本が世界に誇れる素晴らしい文化の1つであり、この先も長く大切に扱っていくべきコンテンツです。
一方で、ゲームが要因で健康面や金銭面でのトラブルが散発している事実も、現状のゲームの側面の1つとして認めなければなりません。
今回の条例がどのような影響をもたらすのかはまだわかりませんが
これを契機として、ゲームが社会により良い形で根付くためにどうすべきか建設的な議論が進むことを願います。
最後までお読みくださりありがとうございました!